2020年の東京五輪を前に、話題になっていた「人工波でのサーフィン」。同じ波は二度と来ないため反復練習が困難と言われているサーフィンにおいて、「同じ波を造り出す」事を実現するウェイブプールの登場は、サーファーの期待値を高めるソリューションとして注目を浴びている。

実は、日本でのウェイブプールの歴史は決して新しいものではない。
振り返ってみると、国内には過去にいくつかのウェイブプールが存在し、サーフィンもされていた。しかし、どのプールもサービス終了の末路に追われている。

スポーツワールド伊豆長岡

1988年に営業開始した「スポーツワールド伊豆長岡(静岡県)」では、過去にASP(現WSL)のイベントが開催され、ダミアン・ハードマン(AUS)が優勝。しかし、1996年に営業を終了。

東武スーパープール

Japanese Wave Pool – Izu, Japan 1988 from Tim Bonython on Vimeo.

1990年に営業開始した東武スーパープール(埼玉県)のウェイブプールでは、平成まで貸し切りサーフィンのプランを展開していたが、現在はプラン展開は行っていない。

ワイルドブルーヨコハマ

1992年には都心から近いベイエリアにワイルドブルーヨコハマ(神奈川県)が開業。90年代中盤のボディボードブームの影響もあり、多くのイベントが開催された。しかし、2001年に閉園。

どのプールにも言えることは、「サーファーにとって満足のいく波のクオリティーが造り出されていたのか?」という点だろう。これが満たされなかったため、現時点でサーファー向けのウェイブプールとしてサービス提供をしていないことを想像するのはたやすい。


宮崎シーガイア・オーシャンドーム

宮崎シーガイア・オーシャンドームの人工波

日本のウェイブプールの歴史を語る上で、オーシャンドーム(宮崎県)を忘れてはならない。
造り出される波のバリエーション、クオリティー、サイズ、どれをとってもこれまでのウェイブプールとは比べ物にならないレベルに達していた。

全長300m、幅100mのプールは、高さ38mの開閉式の屋根に覆われ、世界最大級の室内ウォーターパークとしてギネスブックに認定されている。
プール内にはピークが3箇所存在し、1セットで最大4名がライディング可能な波がブレイクする。
1本目:右奥からライトの波
2本目:左奥ピークからレフトの波
3本目:中央ピークからライト・レフトの両方向にブレイクする三角波
この1~3本が、続けて造波され、1セットとなる。次のセットが開始するまでのインターバルは約3分。60分間で20セット、80ライディングが可能な計算だ。

これは胸前後のファンフェーブサイズでのオーソドックスな造波セッティングにおける波の本数だが、オーシャンドームでは、造波システムのセッティングを変更することで、頭サイズのチュービーな上級者の波に切り替えることも可能であった。

オーシャンドームの造波システムのメカニズムは、プール奥に、高さが10m以上あるとも言われている円柱が並び、その円柱を上下させることで波を作り出していた。この上下の幅により波のサイズを変化させることが可能となり、複数ある円柱間の上下のタイミングを調整することで波のスピードも変化させることが出来たのだ。

以前、運営元の関係者の方に伺った話によると、デモでこの造波システムを可動させていた際に、円柱の上下幅のセッティングを誤ったため、通常は起こらないビッグウェーブが作られ、施設のビーチ側の売店が浸水してしまったという事もあったらしい。

当時のオーシャンドームの触れ込みの一つに「ケリー・スレーターもパーリングしたチューブ波」というフレーズがあったと記憶している。円柱の上下運動のパターンにより複雑なカスタマイズが出来たオーシャンドームの造波システムは、帝王ケリーをもパーリングさせるクオリティーであったことが証明されたとも言える。
(もしかすると、ケリーのウェイブプールへの興味を生んだきっかけがこのオーシャンドームの存在だったのかもしれない)

クオリティーだけでいうと、サーファーにとっては申し分のない施設であったオーシャンドームだが、一般観光客を相手にした商業施設としての運営は困難を極め、ついに2007年に施設閉館となり、10年の放置期間が経過した2017年には完全に解体された。

2019年現在、世界各地で様々な種類のウェイブプール施設が建設され、既に商業施設としてサービス提供も開始している施設もある。
昨今のウェイブプールブームの到来がもしあと10年早ければ、オーシャンドームは今もなお最高の波を造り続けていたのかもしれない。

私は過去に5度ほど、この施設でサーフィンを経験しているのだが、旧に浅くなるプールのボトム形状への適応、淡水による浮力不足、何より「有料でのサーフィン」というプレッシャーもあり、うまくサーフィンが出来た記憶があまりない…。

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